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概要
2015年の春に中国人実習生3人が,当労働相談港湾ユニオンセンターに駆け込んできました.徳島県の山奥の縫製工場で働いている実習生でした.
大きな問題は
①賃金が徳島県の最低賃金(法律で最低の賃金が決められています)を大きく下回っていること,
②時間外賃金も法律違反で低い賃金であること,
③長時間労働(休日にも働かされていた)であること,
④不当に高い住居費・光熱費を徴収していたこと,
⑤劣悪な居住環境である
ことなどでした.
ユニオンセンターで計算すると,3人合わせて,3年間で900万円を超える賃金が支払われていないことが判明しました.
この問題解決のため実習生3人を労働組合(全港湾ユニオン分会)に加盟してもらい,闘いが始ま
りました.すぐに実習生3人を縫製工場から保護し,シェルターで住まわせました.縫製工場の社
長や日本の受入団体が強制帰国させることをさせないためでした.
縫製工場との交渉,労働基準監督署との交渉,入国管理局との交渉を開始・継続しました.弁護
士にも代理人として入っていただきました.努力の結果,縫製工場の社長に未払い賃金(全額では
ない)を払う約束払をさせることができました.実習生3人が中国に帰国した後に,私たち労働組合
は振り込まれた未払い賃金を中国に送金しました.解決まで,約4ヶ月間かかりました.
 実習生10数人が住むプレハブ住宅 |
 職場に設置された監視カメラ |
 実習生10数人が住む生活空間と二段ベッド |
 食卓と冷蔵庫 |
詳しい説明
(実習生の名前はA,B,Cとし,会社名や個人名は仮名とします.)
1、実習生とは
①日本の実習生制度(技能実習生、3年限度、国際貢献・国際協力が名目、実態は出稼ぎ労働者、日本
国内実習生165,000人、労働基準法が摘要される)
②送り出し団体(中国側、担保を100万円程とるという)、 受け入れ団体(日本の企業や企業団体で
あるが幽霊的な団体であることが多い)
③ブローカーの存在(実習制度を巧みに利用し,実習生問題を扱うことで利益を得ようとする寄生虫
的存在の団体や個人.中国にもいるし日本にもいる.)
 水道の代わりの水瓶 谷川の水 |
 時間がないので約1週間分の食事をまとめて作る |
2、被害実習生の来日
①実習生の来日(2012年3月、在留期間2012年3月~2015月3月13日)
②被害実習生メンバー(A、B、C)
③大木縫製商事(仮名)(徳島県の山奥の町、縫製業、大木幸男社長(仮名)、子供服製造販売)
3、実習生からの労働相談の内容
①実習生問題の発生の経緯
イ、2015年2月27日 ブローカー3名,李(中国人)、下橋(名古屋在住の日本人)、大崎(徳島
在住の日本人)が実習生3人を連れてユニオンセンターに相談に来る.
(李、下橋が大木縫製商事社長と未払い賃金を払うように交渉したが、警官を呼ばれて退去させ
られる。交渉に失敗.2月27日、李、下橋、大崎と3人で徳島労働基準監督署、高松入国管理局
に告発したが進展なし。そこで当ユニオンセンターに助けを求めに来たようだ.ブローカー達
は,実習生の未払い賃金の半分を報酬として貰う約束であった.)
②労働条件・労働生活環境の実態
イ、労働契約書・労働条件通知書が実習生の知らないところで偽造されていた.
ロ、毎日、7時50分(名目は8時始業)
ハ、週6日労働、休日は日曜日(しかし,不良品の修理作業など行なうので、実質は休みにならない
日もある.修理作業は賃金なし.)
二、送り出し機関(中国)で基本給1年目60,000円、2年目70,000円、3年目70,000円との説明
があった。(日本の最低賃金法違反である.)
ホ、現金20,000円のみ毎月支給し,残りの賃金は貯金させていた。
へ、残業単価と残業時間(月平均90時間、年1100時間、3年3200時間)
2012年3月15日~3月31日
300円(法律では最低賃金時給654円、なので残業単価817円となるべき)
2012年4月1日~8月31日
350円
2012年9月1日~2013年3月16日
400円(法律では最低賃金時給666円なので、残業単価832円となるべき)
2013年3月17日~6月16日
430円
2013年6月17日~10月16日
450円
2013年10月17日~2014年9月16日
500円(法律では最低賃金時給679円なので、残業単価849円となるべき)
2014年9月17日~2015年3月12日 550円
ト、国民健康保険(病気の時の医療費)は全額実習生負担、雇用保険加入していた.
チ、一人あたりの寮費30,000円(光熱費10,000円+住居費20,000円、50㎡に20名、10㎡6名と
いうような状況,生活空間は一人2.2㎡の基準違反ではるかに狭い、風呂はなくシャワー1人10分
程度、インスタントラーメンの袋の山、まさにタコ部屋(結果として10キログラム痩せた。早
飯。月1万円生活)電話使用・インターネット禁止。日本人からの手紙は渡さない。監視カメラ
による監視労働。
③強制送還(強制送還が怖いから途中で不満、不平、問題を起こさない.理由は途中で強制送還される
と約100万円の担保金が返還されない.)
 職場の労働風景 1 |
 職場の労働風景 2 |
4、本来実習生に支払われるべき賃金、残業代の算出
本来の賃金の計算の仕方
①徳島県の最低賃金で計算。
②国民健康保険料は半分会社負担とし、本人50%負担とした。
③寮はタコ部屋同然と判断した。また水道水でなく自然水使用を考慮した。したがって1人30,000円
は高すぎる。実習生1人10,000円が妥当と判断した。
④労務債権は過去2年分が通例だが、国際貢献の主旨にかんがみ全額支払うべきと判断した。
実習生 氏 名 |
①本来実習生に支払われるべ き賃金・残業代等(3年分) |
②大木縫製商事が実習生に払 った賃金・残業代等(3年分) |
実習生の未払い賃金・残業代 等(3年分)① - ② |
A |
6,956,452円 |
3,891,181円 |
3,065,271円 |
B |
7,083,644円 |
3,973,181円 |
3,110,463円 |
C |
7,140,373円 |
4,019,106円 |
3,121,267円 |
合 計 |
|
|
9,297,001円 |
 実習生が付けていた勤務記録 |
 大木縫製商事の給与明細書 |
5、実習生の救済と支援のとりくみ
①団体交渉要求 3月3日 全港湾ユニオン分会加入。団体交渉申入れ。
3月6日 会社訪問。団交申入れ。会社が警察よんだが,組合が事情を説明すると警官は帰った。
②入国管理局申入れ
3月9日(入管小松島出張所)、3月10日(入管小松島出張所)
3月13日(高松入国管理局との交渉により,5月15日まで在留可能となる)
③受入れ団体との交渉3月10日(受入れ団体代表が実習期間過ぎたと指導責任放棄)
④実習生の保護
3月12日(大木縫製商事訪問。実習生3人を引き取り徳島市内で保護)
⑤労働基準監督署交渉
3月13日(3月9日監督署からの会社調査の報告あり、実習生の労働契約書、同通知書の偽造が判
明)
3月30日(残業代不払い分、実習生3人合計751万余円を監督署に申告)
4月14日(賃金と残業賃金不払い、実習生3人総計929万余円を監督署に申告)
⑥簡易裁判所あっせん対策
4月17日(大木縫製商事が未払い賃金の確定を簡易裁判所にもとめる.裁判所がA,B,Cを呼び出し事
情聴取)
⑦徳島地裁提訴準備(あっせん不調の場合に備え,弁護士を代理人として依頼する。裁判になれば解決
に1~2年必要となる)
⑧実習生の帰国
4月21日(実習生3人は解決を待たずきこくする.A,B,Cは弁護士に委任状提出。日本での交渉を全港
湾に全面的委託。中国と日本の連絡をスカイプ等で連携)
⑨闘争資料づくり
3月3日(残業時間の証明。実習生からの聞き取り、実習生の日誌、写真、給与明細、貯金通帳等の
資料を参考に作成、勝利する日まで続く)
⑩労働基準監督署が大木縫製商事を査察
5月1日(大木縫製商事は,組合が計算した残業時間を認めるが,始業時間前の就業10分と夕食の時
間も働かせていたことを認めなかった.また休憩時間は30分でなく1時間と主張.)
⑪労働基準監督署との交渉
5月6日から28日まで何度も交渉
5月27日妥結,大木縫製商事より未払い賃金が組合に振り込まれる.
⑫送金
6月3日(中国に送金)
6、明らかになったことと今後の課題
①ひどい労働実態と環境(監視労働、タコ部屋、搾取、逃亡年3000人 →名ばかり国際
貢献、 日本の恥
②技術、技能習得に名を借りた低賃金労働力確保、 →農業、縫製業から建設業、介護事業拡大
③政府の産業競争力会議(外国人実習期間3年を5年~7年に)→人買稼業・ブラック派遣業・ブラッ
ク企業の温床
④受け入れ団体のいい加減さとブローカーの暗躍(中国人ブローカー,日本人ブローカー)
⑤積極性に欠ける労働基準監督行政